「アルガンオイルの仕事を始めて良かったこと? それはいつも家族と暮らせることだね」
(アルガンオイル生産者のベルベル族の男性に質問した時に彼が、即答した言葉)
アルガンの木はモロッコの限られた地域だけに育つ希少な植物です。エッサウィラからアガディール、そこから少し内陸にある小さいマラケシュとも呼ばれる古い街、タルーダントが描く三角形の周辺、北大西洋沿いの渇いた石の多い荒地に森を形成しています。
アルガンはアカテツ科の木で、成長は遅いものの、その生命力は強く樹齢は2〜300年ともいわれ、傘のように広がる梢が作る適度な木陰や、水を求めて地中深く張られた根の保水力によって、土地や他の植物を乾燥から守ることが知られています。
強い日差しや乾燥の中でも永らえられる数少ない木であるため、この地域に暮らす人々にとって、その実はオイルの原料とするほか、家畜の餌や木材、燃料として役立ってきました。しかし非常に成長が遅いことが災いし、乱伐のためアルガンの森の規模は年々縮小していました。
しかし2000年頃から、ラバト大学の教授ズビーダ・シャルーフ女史が、アルガンオイルを作ることで、家族に恵まれない女性たちの経済的自立を助ける組合を組織。アルガンオイルの美容効果やスローフードとしての価値に世界的な関心が広がったことをきっかけに、現在では国を挙げてのアルガンの森の保護や植林が行われるようになりました。
さらにアルガンの森を擁する地域の人々にも、アルガンオイルの製造は、生活を安定させる持続的な良きビジネスとなり、アルガンの森を守ることの重要性が実感されるようになりました。
アルガンの森、アルガンオイルは、より広く多くの人にその恩恵をもたらし、自然と人が互いを守りながら生きて行く形が、今も育ち続けています。